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​間奏1『或る女の話』

4月‪✕‬日。
 明日は、私が教師として生きる記念すべき最初の日。お父様の研究所で働く方々のお子さんを任せてもらえることになっている。昼間は小学校の担任として男の子二人を受け持ち、夕方からは高校生の女の子の家庭教師をするのだ。
 素敵な先生だと思ってもらえるように頑張らなくちゃ。子どもたちに会うのが、今からとても楽しみ。

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5月△日。
 私の生徒たちは皆良い子だ。リクくんは好奇心旺盛で運動神経抜群な男の子。何にでも興味を持ってくれるから、教えがいがある。
 ソラくんは真面目で賢い自信家な男の子。用意していた応用問題も全部満点。その内すぐに抜かされてしまいそうだ。
 高校生の月夜ちゃんはとてもクールな女の子。私のことを本当の姉みたいに慕ってくれて、将来は医者になりたいと、はにかみながら教えてくれた。
 たったひと月過ごしただけなのに、私はもう三人のことが大好きになっている。今はまだ未熟だけれど、いつか皆の未来を明るく照らす存在になれたらいいな。

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8月〇日。


 最近、お父様の様子がおかしい。毎日夜更けまで研究室にこもって実験を繰り返している。私など目にもくれず、ぶつぶつとうわ言のように何かを呟きながら、手だけを必死に動かしていた。そんな彼は、まるで知らない人間のように見えた。いったい、お父様は何をそんなに急いているのだろう。少しだけ、嫌な予感がする。

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12月?日。
 あの人は、本当に私の父なのだろうか? お父様は、変わってしまった。以前までの彼ならば、例えどれだけ重要な実験の過程であっても、非人道的な行いをすることは決して無かったはずだ。それなのにお父様は、私の小さな教え子たちを被検体として差し出せと言ったのだ。信じられない。お父様の成そうとしていることは、人としてやって良いことの範疇を優に超えている。だが、お母様も研究所の方々も、大人たちは全員彼の言いなりだ。このままでは子どもたちに危険が及ぶ。私が何とかしなければ。私が、あの組織から子どもたちを遠ざけなければ。

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#月*日。
目の前で、二人の少年が対なるものに姿を変えた。片方は音を操る光に、もう片方は音を飲み込む闇に。追い詰められた二つの色は、やがて混ざり合い、力を打ち消し合って息絶えた。私は、ただその光景を見ていることしか出来ずに。

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 一族の罪は私の罪。私が背負うべき業はここにある。私は、子どもたちを未来へ導く教師にはなれなかった。代わりに得た称号は、無垢な彼らを破滅へ誘うバケモノの祖。
 大切な教え子たちを守れなかった私に、正義なんて言葉はあまりにも不釣り合いだった。

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