top of page

​前奏曲「このセカイに光あれ」

 何処かで爆発音が聞こえた。顔を上げると、西棟の一角が燃えていた。

「命さん……」

 龍のように舞い襲る炎を見つめながら、そっと呟く。その口に出したところで、予感は確信に変わった。あの人だ。爆発を起こしたのはあの人で間違いない。光希はぎゅっと服の裾を握りしめると、嫌な想像が頭中を支配してしまう前に踵を返した。正門まであと数十メートル。【あいつら】に見つかってしまう前に、ここから抜け出さなくてはならない。

 全てを伝えること。それが光希に与えられた最後の使命だった。これ以上の犠牲を出す前に、全てを終わらせに行くのだ。

「良いか、光希。良く聞け」

 大地を踏みしめる足に力が籠る。

「オレは、お前が嫌いだ。本当は認めてなんかやりたくねえ所だ。……だけどな、悔しいけど、今世界を救えるのはお前しかいない。お前が最後の砦なんだ」

 息を吐き、一年ぶりに学園と外の世界を分かつ狭間に立った。

「皆、無事ですよね? ちゃんと、生きて戻ってきますよね?」

「バカ言え。心配しなくたって、アイツらはこんな所でくたばるヤワじゃない」

 だから行って来い、と彼は言った。いや、彼だけじゃない。きっと今もどこかで戦っている仲間たちも、力強く背中を押してくれた。

 一年前にここに立った時は、背後からさす月の光を恐ろしく思っていた。

 でも今は。

 

 このセカイにもたらされた、希望の光だ。

bottom of page