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『一際美しく輝いて散れ』 monologue1809
『翼は綺麗だねぇ。世界で一番美しい、私の自慢の子』
優しくボクの手を撫でる母さんの手の温もりを、今でもはっきりと覚えている。六歳の時に父さんが家を出ていってからも、母さんは変わる事無くボクを愛してくれた。世界で一番美しい、大好きな母さん。
でも、幸せだったボクの小さな世界は、周りの大人達からみれば不幸に見えたみたい。母さんが、ボクを不幸にしているのだと、周りの大人たちは言った。
『あらまぁ翼くん、こんなに細くって、ちゃんと食べてるの?』
『真由美さんじゃ、良い恋人にはなれても良い母親にはなれないわよ。ふわふわしたところがある人だし、ちゃんと育児してないのかもね』
『男の子なのに、お父さんが居ないのは可哀想だろう。伯父さんの家の子にならないか?』
皆、ボクと母さんを引き離そうとする。
違うんだ。母さんはそんな人じゃない。
父さんがいた頃の穴を埋めるように、朝早くから毎日お仕事を頑張って、ボクの為にあったかいご飯も作ってくれて、寝る前には絵本を読んでくれた。
なのに、どうして?
ボクらは世界一、美しい家族なのに。
【声の能力】─『歌の翼に』
『翼、ごめんね。顔だけは傷つけないからね』
大丈夫だよ、平気だよ、母さん。
誰もボクらのことを理解しない世界なんて、生きている意味が無いよ。
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個人番号:1809
天曜 翼(てんよう つばさ) 12歳
母子家庭で育った子ども。十歳の頃、一家心中に巻き込まれる。母親は亡くなったが、息子である翼は奇跡的に一命を取りとめた。事件後の形跡から、母親に刺された際、一切の抵抗も見せなかったということが分かっている。母の死後、彼女の唯一の形見である自分自身の容姿に深くこだわるようになる。
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